知的財産職の仕事内容(特許)

この記事では、知的財産職に興味を持たれている方に向けて、その仕事内容の外観をご紹介させて頂きます。ぜひキャリアパスを描く上での参考にして下さい(就職活動・転職活動・採用活動)。知的財産には、特許、意匠、商標、著作等の様々なものが含まれますが、知的財産職の大部分が技術的発明を扱う特許職となりますので、本記事ではそちらに焦点を絞ってご説明します。

なお、この内容は、2022年8月6日にチザワカ主催の知財系キャリアイベントにて、知財職に興味を持つ学生に向けて知財の楽校の玉利が説明するものです。

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企業の研究開発と事業活動

特許は企業の研究開発や事業活動と一体不可分の関係にありますので、この点からお話していきます。各企業は、顧客に対して何らかの価値を提供し、その対価を得ることで事業活動を営んでおります。

この価値というのは、端的に言えば製品やサービスです。これらを裏で支えているのは、その会社の有する様々な強みであり、その心臓部に 「技術」 が位置している企業は、5年後、10年後、更にその先を想像して研究開発活動を行っています。

研究開発テーマの選定にあたっては顧客の具体的なニーズを捉えることはもちろん重要ですが、昨今、SDGsを含め環境や社会全体の課題に対するミッションを掲げて技術開発を行う重要性が増しています。

このような研究開発や事業活動に様々な企業が取り組み、顧客に製品やサービスを届けていきます。

これらの研究開発における競争を刺激することによって、世の中の技術イノベーションを加速させるために設けられた人為的な仕掛けが特許制度です。研究開発の競争を狙った世界的なルールですので、使いこなすことができれば、事業競争力の源泉となるポテンシャルを秘めています。技術立脚型企業の事業活動において、大変重要な意味を持っているということです。

そこで次に、特許制度が一体どのようなものであるかについて、簡単にご説明致します。

特許制度の基本

特許制度というのは、優れた技術を発明し特許出願をした人に対して特許権を与える代わりに、世の中にその技術の内容を公開して貰う仕組みです。

特許出願人側は一定期間その技術を独占して事業をすることができ、世界中のライバル達は公開された技術的知見を活用して研究開発を加速させることができます。特許権は早い者勝ちであるため研究開発競争を刺激し、権利取得の代償として各社が技術を隠さずに共有していきますので、イノベーションも加速されます。

特許出願をしさえすれば何でもかんでも特許権を与えて良い訳ではなく、公開してくれた技術の価値に見合うだけの権利を与える必要がありますので、出願人は特許庁の審査官とやりとりをして、所定の審査を突破しなければ特許権を獲得できません

それでは次に、特許の仕事が、企業の事業活動にどのような影響を及ぼすのかについてご説明したいと思います。

事業に及ぼす特許の影響

特許権は、研究開発により見出した技術を一定期間独占して事業をする権利ですので、最も分かり易く言えば技術を切り口とした事業領域の陣取り合戦です。どこでどのような事業をするのか、できないのか、それらを決める合戦ですので、大変重要な意味合いを持ちます。特許権は目には見えませんが、今から述べる7つの領域に分けられていきます。特許職は、その作戦を指揮し、実行する役割と考えて頂ければイメージがし易いです。

1つ目の領域は自分達の陣地です。自社の特許権のみがある範囲ですので、他社が入って来た場合には特許権を行使して縄張りの外に追い出すことができ、逆に他社の特許権を行使される心配もありません。つまり、自社だけがビジネスをすることができる領域です。

2つ目は他社の陣地、敵陣です。先程と正反対で、他社の特許権のみがある範囲ですので、他社だけがビジネスをすることができる領域です。

3つ目は、自社と他社の特許権が重なり、拮抗している領域です。双方の特許権がある範囲は、お互いに特許権を行使して排除することができますので、どちらもビジネスをすることができません。特許権を持っているからと言って必ずしも事業が出来るとは限らず、他社の陣地を見ておかないと危険だということです。一方で、折角研究者がつくり上げた技術でありながら、特許権が拮抗しているからといって、世の中に製品やサービスとして一切出ていかないというのは望ましくありません。

そこで、4つ目はこちら、お互いに協定を結んで和睦していく範囲です。特許権が拮抗している領域ではありますが、話し合いの上でお互いにビジネスができるような取り決めをし、解決します。特許権にはライセンスという仕組みがあります。特許権の持ち主が、他社に対して陣地に入ってくること、すなわちその技術を使って事業をすることを、何かしらの条件付きで許す、というのがライセンスです。今回の場合は、双方の特許権を持ち出してお互いに許し合う、いわゆるクロスライセンスのカタチとなります。

5つ目は、自分の陣地の一部を相手に貸し渡す領域です。自社の特許権のみがある範囲ではりますが、対価を貰い受ける代わりにライセンスを与え、他社にビジネスをさせてあげるという構図です。貸し方や、対価の内容は契約次第で様々です。一人だけに貸すのか、他の人にも貸すのか、それとも特許権自体を売り渡してしまうのか、対価の大きさと照らし合わせて交渉していきます。これこそ事業戦略次第です。

6つ目は、相手の陣地の一部を借り受ける領域です。先程とは逆で、他社の特許からライセンスを貰う範囲であり、他社に対価を支払ってビジネスをさせて貰います。

最後は、空地です。まだ誰も特許権を獲っていない範囲であり、誰でも自由に技術を使ってビジネスをすることができる領域です。但し、いつ誰が特許権をとり、自分の陣地にしてくるか分からない領域でもあるので、注意して研究開発を進めて頂く必要があります。

事業や研究開発の将来を想像して、これらの陣取り合戦を指揮し、実行するのが特許職です。そのためには、特許に関する専門性という武器を磨く必要があります。

ただ今ご説明差し上げた特許陣取り合戦について、具体的に実行する特許の仕事の二本柱をご紹介致します。

特許の仕事の2本柱

特許の仕事の二本柱、一本目は自社特許出願です。研究開発で発明した技術について特許権を持っていると、他社はその技術そのものを使うことができなくなります。立入禁止です。競争力の高い技術を独占して事業をすることができますので、優位な立場に立つことができます。このように、自社の特許権、すなわち陣地を築く活動を、自社特許出願、或いは権利化と言います。

例えば、研究開発の成果として、世界で初めて転がらない鉛筆を発明したとします。
従来は断面が円形の鉛筆しか存在しなかったところ、断面を六角形にすることで転がらない鉛筆が完成しました。

仮に、特許権の範囲が断面が六角形の鉛筆のみであれば、競合他社は断面が八角形やその他の鉛筆を作って、簡単に特許権を掻い潜ってくる筈です。

このように多くの場合、実験事実や研究開発で得られた知見そのものは「点」です。

一方で、そこで得られた技術要素はもっと広く通用するものであり、今回の例を広く捉えれば断面に角を付け多角形にしたことがポイントです。技術を保護するには、ここまで拡げて権利を請求する必要があり、このように権利は面となります。

特許は陣取り合戦ですが、土地とは違って技術には実体がありません。したがって、特許権の権利範囲は技術の捉え方次第で自由にデザインすることができます。自社特許出願では、この権利範囲を描くことが仕事の肝であり、事業性が高い範囲を押さえたり、少しでも広い範囲をカバーできるように創意工夫します。

但し、好き勝手に拡げて特許性が認められる訳ではありません。審査を突破し、後から権利を潰されないためには、特許法や審査基準を踏まえた上で、論理を組み上げることが必要です。

更に言えば、特許権は獲得するだけで一人手に効力を発揮してくれる訳ではありません。その特許権を侵害する他社が現れた場合には、裁判の場で、自ら侵害を立証していかなければなりません。裁判で勝てるように侵害の発見や証明がし易いような言葉を紡いで権利範囲を描いておく必要もあります。

以上のようなことを練りに練って特許出願明細書と呼ばれる書類に文章として表現する、これが自社特許出願の仕事内容となります。

特許の仕事の二本柱、二本目は他社特許対策です。先程と逆の状態を考えてみましょう。ある技術について他社が特許権を持っていると、自分達がその技術を使いたいと考えても、他社の特許権を行使され、ストップを掛けられてしまいます。基本的には他社特許は尊重しなければいけませんが、事業上、そして研究開発を進める上で、どうしてもその技術を使いたい場合も出てきます。そのために、他社の特許権を打破し、自分達の事業実施や研究開発の自由度を確保するための活動を、他社特許対策と呼びます。

他社特許対策手段の方針については、大きく2つのルートに分けることができます。1つ目のルートは、他社特許の陣地の中に入ってしまっている状態を受け入れずに、自社の技術が他社特許の範囲外とする状況を作り出す方針です。

2つ目のルートは、他社特許の陣地の中に入ってしまっている状態を、交渉により受け入れて貰う方針です。それぞれの代表的な手段について、一つずつ図解していきます。

他社特許の範囲外の状況をつくる対策方針の手段の1つ目は特許権を無効化することです。自社技術が他社特許の権利範囲を踏んでしまっている場合に、その一部又は全部の特許権が無効であることを主張し、自社にとって無害な範囲まで狭めさせる方法です。

2つ目は、技術内容で回避することです。先程は他社特許側の範囲を動かしましたが、今度は自社技術側を動かします。一度成立した他社特許側を潰すには相応の労力が掛かり、潰し切れるかどうかも内容次第となりますので、技術内容によっては研究開発の方向性をシフトすることも考えられます。

他社特許の範囲内を受け入れて貰う対策方針の手段の1つ目は、他社特許権を購入することです。自社技術の内容と一部被ってしまっている特許を他社が保有している場合に、その権利を買って自分の範囲に塗り替えてしまうという手段です。

2つ目は、ライセンス許諾を受けることです。こちらは特許権そのものを買う訳ではなく、他社特許の陣地の中に入っていても許して貰えるように、契約交渉によって対価を差し出してライセンスを受けるという手段です。以上のような選択肢を踏まえて、時には他社特許の陣地を突破するための活路を見出し、実行することが他社特許対策の仕事内容です。

最後に、特許の代表的な職種をご紹介致します。

特許の代表的な職種

一つ目の職種は、企業内の特許担当です。これまでご説明してきたように、特許は研究開発や事業活動と一体不可分の関係にあります。社内の事業企画や研究者と現場で連携して、研究開発活動に入り込み、事業シナリオを特許群でバックアップする、そのための作戦を立てて専門的な特許実務に繋ぎ込んでいく役目を担う仕事です。

二つ目の職種は、特許事務所の特許技術者や弁理士です。特許権というのは実体の無い概念で、人間が取り決めたルールに沿ってその内容や権利範囲を定義していく目には見えない世界です。特許の陣取り合戦は、見えないものを文章で表現して戦わせる論理合戦と言い換えることもでき、そこには高い専門性が求められていきます。特許事務所は最新の法律や実務知識を使いこなしながら、各企業の描く特許の作戦を、専門文書に落とし込む役割を担います。特許担当がいない中小企業、ベンチャー、スタートアップをお客さんとする場合には、作戦を練るところから現場に入り込むケースもあります。

三つ目の職種は、特許庁の審査官や審判官です。各企業が特許事務所と連携して、出願された特許の有効/無効の判断を司る番人であり、実体の無い特許権という概念を、国が正式に認めるにあたってのエキスパートな仕事を担います。

以上の3つが特許の職場としては大多数となりますが、その他にも重要な役割を担う仕事はあり、例えば、特許情報に関する、調査、分析、コンサルティング等がございます。ここまででご説明してきましたように、特許出願は、各企業の将来事業の陣取りを意図した行為になりますので、特許制度が無ければ本来外には公開したくないような重要な情報が入り込んでいます。これらを分析することで、各企業の事業戦略に役立てるサポートをしている会社もあり、昨今重要性が増しています。

最後に

如何でしたでしょうか。本記事では、知的財産職、とりわけ特許職についてご紹介をさせて頂きました。特許の仕事内容に興味を持たれた方は、ぜひキャリアパスの一つに加えて頂ければ幸いです。

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