前回のあらすじ
- 今注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 上司である朔の薦めで特許部員の瑛大から特許のことを教わっている。
- 新は先輩研究員の颯真と研究チームを組み新商品開発プロジェクトに挑むことになった。
- 颯真の研究内容を把握するために新は颯真の過去の特許に目を通していたが読み方が難しく挫折しかけていた。
- 瑛大に特許の読み方のコツを伝授してもらい順調に読み進められるようになった。
特許ってどう読むの!?
このお話で学べること
- 世の中に特許はどれくらいある?
- 特許を調べる方法は?
- 特許検索の絞り込み方は?
こんな疑問ありませんか? 新たちと一緒に楽しく学んでいきましょう!
本編
週明けの月曜日。 チームを組んでいる新と颯真は、 新商品開発プロジェクトへのエントリーに向けて打合せをしていた。
リストアップしていただいた颯真さんの特許出願全て目を通しました!
へ~!特許読み慣れてへんって言うとったけどもう終わったん?すごいやん!
正直最初は難しかったんですけど、瑛大さんに特許の読み方のコツを教わってからは一気に読みやすくなりました!
特許を読んで颯真さんのこれまでの成果がよく分かりました。面白い技術がたくさんありますね~。
サンキュ!でも今回のプロジェクトではもっとおもろい製品出したいから頼むで!
は、はい!頑張ります!
そないに堅くならんで大丈夫やで。笑
未来の技術を開発していく俺たち研究者は常にワクワクしとかんとな!
!!そうですね!!
ほんで、プロジェクトに向けて今のところやりたい製品って何かあるんか?
ボールペンをやりたいです!多くの人が毎日のように使うボールペンに、何か新しい便利機能を付けたいなと思っています!
ほ~!!見かけに依らず新は勝負師やな!ボールペンは文房具の花形やし競争も激しいで!でも確かに今回のプロジェクトに相応しいネタでもある。それでいこか。
ありがとうございます!でも実はまだ具体的なアイデアは浮かばなくて…。
まだまだ時間あるし焦らんでいこう。
そうや!そういう時は色んな新技術を学んで参考にしてみるのがええで!
なるほど!それこそ特許制度を活用しないとですね!ライバル達のボールペンに関する特許から技術を学んでアイデアを膨らませてみます!
よっしゃ!それは俺も読んで勉強したいから最近のボールペンに関する特許を調査しておいてくれるか?
えっと…すみません。どうすれば?
そうかそうか!特許調査はまだやったことなかったんよな。
これから丁度特許の勉強の時間やろうし、瑛大さんに教えて貰ったらどうや?
それが良いですね!そしたら行ってきますね!
おう頑張って来いよ~!
あ、そうや。特許調査やったらあいつの力借りんとな。特許部に俺の同期の葵(あおい)ってやつがおるから瑛大さんに紹介してもらうとええで。
ありがとうございます!聞いてみます!
・・・。
お~い新、惚れるなよ。笑
な、なに言ってるんですか?もう行きますからね!
颯真との打合せを終えた新。
特許部に向かう途中で・・・。
まったく、颯真さんはすぐにいじってくるんだから…。
きゃっ!
うわっ!ご、ごめんなさい!
よそ見して・・・て。
こちらこそごめんなさい。おケガはないですか?
だいじょうぶです…。
よかったぁ。それじゃあ私行きますね。
あ…! 行っちゃった…。めちゃくちゃ綺麗だったな、今の人。
おはようございます。今日もよろしくお願いします。
宜しくお願いします。
おっ揃ったね。それじゃ今日も始めようか。
さっき電話で颯真くんから聞いたよ!今日は特許の調査について知りたいんだよね?
そうなんです!新商品開発プロジェクトでやってみたい製品が決まったので他社の技術アイデアを参考にしたいなと思ってます。
OK!特許調査のことなら心強い味方がいるよ。
葵さ~ん!ちょっと来てもらえる?
は~い!お待たせしました。
あ!さっきの…!
あれ?知り合いだったかな?
さっき私が廊下でぶつかっちゃったんです。またやっちゃいました。笑
そっかそっか。笑
紹介するね。こちら3年目社員の新くんと、 大学院からインターンで来ている理人くん。2人とも特許のことを学んでいるんだ。
新です。よろしくおねがいします!
理人です。宜しくお願いします。
はじめまして、葵です。特許部で特許調査の担当をしています。
葵さんはちょっとドジなところもあるけど、実はめちゃくちゃ凄いんだよ。特許調査のスキルを競う特許検索競技大会で準優勝の経験があるんだ!
え、瑛大さん!ドジは余計ですよ!
あ、ごめんごめん。失言だったね。笑
新くんが特許調査を依頼したいそうで、葵さんにお願いしても良いかな?
もちろんです。お受けしますね。
よ、よろしくお願いします!(ラッキーだけど緊張するなぁ…)
具体的な依頼をする前に、今日は特許調査の基本を教えておくね。
まずは特許調査の大事さを数で感じて貰おうかな。葵さん、今世界の特許出願件数ってどれくらいだっけ?
それなら丁度良い統計があります。
さ、350万件!?そんなとんでもない数の出願があるんですか?
しかもそれは1年間の件数ですよね。特許権って20年間続くものだから20年分にしたらとんでもない数ですね。
そうなんだ。但しこれは飽くまで出願された件数。この中には権利にならずに途中で捨てられるものも含まれるよ。とは言っても膨大な数だよね。
この中で新くんたちが見たい特許はごく一部だよね?その範囲を何とか工夫して切り出してくることが特許調査です。
今の世の中は皆ネットやSNSで情報検索をしているよね。でも特許には特許の情報の特殊性があるから、そのための検索スキルが必要になるんだ。
そのスペシャリストが葵さんってことですね!国内大会で準優勝とか凄いです!
えっと…。大したことないよ…って言ったら不安になっちゃうか。
良い調査ができるようにがんばるね!
でも実際は、葵さんにだけスキルがあっても調査って上手くいかないんだよね?その辺について2人に教えて貰えるかな?
わかりました。まずは特許調査が上手くいかないパターンを伝えるね。
1つ目は特許検索の範囲を外してしまって見るべき特許が漏れてしまうことだよ。
焦点がずれてしまうかスコープが狭すぎた場合ですかね?
すご~い!理解が早いね!
2つ目は逆に範囲を拡げすぎてしまうことなの。
なるほどです。そうすると、見たい特許の他に無駄な特許まで大量に入り込んでしまうんですね?
2人ともすごいね!
そうなの。これだとノイズがとても多くなってしまうの。
新くん、①と②ではどっちの方が失敗として多いと思う?
うう~ん…難しいですけど…①の方が困りますよね?僕だったら①のリスクが怖くて②にしてしまいそうな気がするなぁ。
大正解!どんな仕事もそうだけどリスクが怖いと安全ベースでいきたくなるよね。でも、リスクを怖れ過ぎると収拾がつかなくなるよ。
研究の時間は貴重ですから無駄な特許を大量には見たくないですね。
そうだよね!だからこそ狙いに照準を合わせて検索範囲を絞る必要があるの!①のような失敗はしないように注意しながらも攻めた検索範囲を設定する!これが面白いの!
葵さんって特許検索のことになると急に熱血になることあるよね。笑
きゃっ!ごめんなさい。
か、かわいいな…
そんな訳でちゃんとした検索をする場合には葵さんのようなプロの力を借りるんだ。葵さん、具体的な仕事の流れはどんな感じかな?
基本的には打合せや相談をして検索範囲を決めていきます。絞り込むために必要な情報を研究者の方に出してもらって、それをもとに私が検索式を作ります。
葵さん自身のスキルやテクニックに加えて特許検索専用のシステムを駆使してやってくれるよ!
な~んだ。そしたら特許検索にはプロがいるから僕達研究者には検索の知識はあまり必要ないですね。
理人くん、実はそれは大きな間違いなんだ。
え、なんでですか?特許のことや検索のことが大事なのは分かりますけど専門領域はプロに任せた方が良いですよね?研究者は少しでも研究に集中した方が良いですし。
正直に言ってくれてありがとう。その気持ちはよく分かるよ。でもね、特許の仕事は専門家だけに任せても決して良い結果は生まれないんだ。
なんか大事そうなことですね。詳しく教えていただいても良いですか?
良い特許権をとるには、技術自体が優れていることに加えて、特許として使えるように仕立て上げることが必要でしょう?つまり、技術知識と特許知識の2つが絡み合って初めて良い特許になるんだ。
でも、技術も特許も専門的なものだから、この2つの知識を1人で極めるのは無理がある。さて、どうしたら良いかな?
だからこその役割分担。研究者は技術知識を、特許担当は特許知識を、ですよね?
半分正解で半分不正解かな。それじゃあ質問。
特許の法律や手続は完璧に知っているけれど理人くんの研究する技術がまるで分からない特許担当がいたとしよう。理人くんは大事な特許出願を任せられるかな?
・・・いえ、任せられないです。だって、それじゃあ僕のした発明の技術内容を話したって分かってくれないじゃないですか。
その通り。技術と特許は質高く絡み合ってコミュニケーションをとることが1番大切なんだ。でも、それぞれを専門家に任せているだけだと、相手の言っていることすら分からない。打合せでどんな情報を出せば良いすら分からなくなるんだ。
そういえば、特許部の担当の言っていることは意味が分からないってぼやいている先輩がいたなぁ。
もちろん僕たち特許部員の勉強不足やコミュニケーション能力不足も大いにあると思う。でも、朔や颯真くんのように一流の研究者はそんなことを言っているかい?
…聞いたことがありません。
一流の専門家は関連する専門領域についても最低限の知識を身に付けるんだ。そして高い次元で周りの専門家とコミュニケーションをとって活用する。これはお互い様だと思うんだ。
…よく分かりました!生意気言ってすみませんでした。
いや、これは多くの会社で問題になっていることで、疑問に思うのは当然と思う。だから僕は2人に特許の知識も身に付けて欲しいなと思っているんだ。
これと同じことが特許検索にも言える。良い検索をするには絞り込むための的確な情報が要る。葵さんがどんな方法で検索をしているかを何も知らなくて、 果たしてそんな情報を出せるかな?
それは無理です…。
というわけで、共通言語としての最低限の知識は身に付けましょう!
葵さん口を挟んでごめんね。そしたら特許検索のやり方を簡単にレクチャーしてくれる?特許にどんな情報が書かれているかは既に2人に教えてあるから。
特許ってどう読むの!?
OKです!前に瑛大さんが説明したように、特許は公開公報という形式で文字情報とし
て世の中に公開されています。基本的にはその文字情報を手掛かりとして検索でヒットさせます。
1つ目の手掛かりはWhatの観点、何が書かれているか、だよ。具体的には、2人が見たいと思っている内容の特許に高い確率で登場するようなキーワードを決めてヒットさせます。
手掛かりの2つ目はWhenの観点、時間情報です。
いつからいつの特許出願か、つまり出願日で絞るということですね。確かに、見る目的によっては絞って良さそうですね。例えば、特許権は20年間だけなのでそれよりも前は切り捨てて良い場合もありそう。
その通りです!3つ目の手掛かりとなる情報はWhoの観点。
誰の出願か、つまり出願人で絞るんですね。これも目的次第ではアリですね。特定のライバルの出願だけを見たい場合もありますもんね。
この3つの切り口と、実はもう1つ重要な情報があるの。さっきWhatはキーワードでヒットさせるって言ったんだけど、これってどう思った?
なんていうか…。ちょっと間接的だなって思いました。本当なら書かれている技術内容で直接的にヒットさせたいですよね。でもそれは難しそうだな…。
新くんって本当に頭の回転が速くてすごい。確かに、どんな内容かは文章の裏にある「意味」を読み取らなければいけないよね。 これを直接検索することは難しいの。
でも、特許にはとっても便利な特許分類というものがあるの。代表的なものはIPC分類という世界共通の分類。各国の特許庁が、全ての特許に共通の基準で分類を付与してくれているんだよ。
それは便利!利用しない手はないですね!
最後に検索範囲の絞り方をまとめるね。まずは近しい特許分類を選んできて大まかに技術範囲を区切ります。次に、見たい特許に高確率で登場しそうなキーワードを決めてこれらを含む特許を検索します。最後に、この両方が重なる範囲を切り出してあげることで検索範囲を決めていくイメージだよ。
つまりは、最適な特許分類とキーワードを導き出すための情報を出すことが大事なんだね。
そうです!打合せでそういうことが聞けたら良い検索ができます。
あとは目的次第で出願人や出願日でも絞れるから、 特許を調べたい目的も共有してくれると嬉しいかな。
今日もとても良い勉強になりました!
良かった!他に何か質問はあるかな?
1つだけ良いですか?とても勉強になったんですけど、調査ってプロの力を借りないと絶対できないですかね?大学の中にはそれを頼めるようなプロの方は居なくて…。
とっても良い質問です!きっちり調べる時は葵さんのようなプロの力が必要だけど、もっと気軽に調べたい時もあるよね。そんな時は特許情報プラットフォーム(J-Plat Pat)を利用すると良いよ!
名前の由来の通りプラッと寄ってパッと調べられるから便利だよ。
そんな便利な無料サイトがあるんですね!使い方はどうしたら良いですか?
それについても安心して。ちゃんと分かりやすくマニュアルも揃っているから。
検索窓にキーワードや出願人、特許番号等を入れれば1クリックで調べられるから初心者でも大丈夫だよ。
助かります!ぜひ使ってみます!
ぜひぜひ!それじゃあ今日の勉強会はおしまい。葵さんと新くんはこれから特許調査の打合せかな。
はい!葵さんお願いできますか?
もちろんだよ。よろしくね。
葵の力を借りて無事にボールペンの最新技術に関する特許調査ができた新。
ライバル達の特許から技術を取り入れて新たなアイデアを生み出すことができるのか!?
次回へ続く。
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