特許出願の設計図の描き方

 
たま
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前回までのあらすじ

今注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 先輩研究員の颯真と研究チームを組み 新商品開発プロジェクトに挑んでいる。
新はインターン生の理人と共に 特許部員の瑛大から特許のことを教わっている。
これまで2人は特許制度の概要と権利化(特許審査のチェックポイント)について学んできた。
新はボールペンに関する新製品案を検討中であり 近々特許出願を初めて行うことになりそうある。
前回

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このお話で学べること

特許出願とは?(おさらい)
特許出願の目的は?
特許出願の設計図を描くには?
 
たま
一緒に楽しく学んでいきましょう!

本編


主人公
そ、颯真さん!
聞いてください!
颯真
先輩
おはようさん。
朝から慌ててどないしたんや?

主人公
遂に新商品のアイデアまとまりました!
聞いてもらえますか?
颯真
先輩
ほんまか!? それはぜひ聞かせてもらうわ!

主人公
ありがとうございます!
第2会議室押さえたんでお願いします!
颯真
先輩
OK!
そうや…あいつも誘った方が良さそうやな。
新、ちょい先行っといて貰えるか?

主人公
??
分かりました。
会議室でお待ちしています。
 
 
颯真
先輩
新、待たせて悪かったな。
打合せにもう一人呼びに行っとったんよ。
ほら、お前も入りいや。

事業企画
失礼します。

主人公
さ、悟(さとる)!?
悟(さとる)は事業企画部に所属する新の同期
既存の主力商品の営業担当として数々の大型受注をとってきた若手のホープ。
経営層からも将来を期待され事業企画部に異動してきた。
新規事業の創出を期待されるも既存事業とは勝手が違うためか思うように成果が出せずにいた。

事業企画
おー新。
久しぶりじゃん。

主人公
同期トップのエリートがこんなところでどうしたんだよ?

事業企画
まぁそう言うなって。笑
颯真さんに誘ってもらったんだよ。
仲良くしようぜ。

主人公
颯真さん!?
どういうことですか?
颯真
先輩
悟も新商品開発プロジェクトのチームに入ってもらうことにしたで。
2人ともよろしく!

主人公
ええーー!!
颯真さん急過ぎですよ!!

主人公
それに…
悟は既存の主力商品至上主義…
新商品開発している僕ら研究者とは馬が合わないと思いますよ?

事業企画
まぁ…そこは否定しねぇよ。
颯真
先輩
2人とも落ち着けって。
ちゃんと狙いがあってチーム組んでるんやから…。

主人公
颯真さんがそう言うなら…分かりました。
よろしくお願いします。

事業企画
新規事業創出は正直よく分からないんですが…
やる限りは全力で取り組むんでよろしくお願いします。
颯真
先輩
そしたら本題!
新、考えてきた新商品の案を教えてもらえるか?

主人公
分かりました!
それでは説明します。
 

主人公
…というボールペンなんですがどうでしょう?

事業企画

へ~(面白そうじゃん)
颯真
先輩
やっぱり新の目の付け所はセンスがあるなぁ。
ふむ…コンセプトはこれで行こか!

主人公
本当ですか!?
やったー!ありがとうございます!

事業企画
そしたら急ピッチでサンプル作ってくれますか?
売込先と事業規模考えとくんでお客さんにも見せて反応貰いましょうよ。
颯真
先輩
焦ったらあかんで悟。
いくらアイデアが良くても事業にするにはまだまだやる事がある。
新、まずはこの技術の特許出願を検討しよか。

主人公
え!遂にですか!?
はい!やってみたいです!
颯真
先輩
特許出願は初めてやったよな…
出願は色々考えなあかんからな…
まずは瑛大さんからガイダンス受けてきいや。

主人公
分かりました!
いってきます!
颯真 先輩
悟、何戻ろうとしてんねん!?
お前も聞きにいくんやで。

事業企画
えっ…俺もですか?
特許って技術系がやることじゃないんですか?
颯真
先輩
価値ある特許出願をするには事業戦略とのリンクが大事なんよ。
特許の観点が実装されれば事業戦略自体も強固になる。
ええ気付きがあるはずやから行ってみ。

事業企画
…分かりました。
 

主人公
瑛大さんおはようございます。
瑛大
特許部員
新くんおはよう。
新商品のコンセプトが固まったらしいね。
おめでとう!

主人公
ありがとうございます!
あ、紹介しますね。
こちら僕の同期の悟です。

事業企画
事業企画部の悟です。
よろしくお願いします。
瑛大
特許部員
颯真くんから聞いているよ。
特許出願について聞きに来たんだよね。
今日は理人くんは来てないから2人に説明するね。

主人公
お願いしますっ!
 
瑛大
特許部員
今日は悟くんもいるからおさらいから入ろうかな。
それじゃあ新くん特許権ってどんなものか説明してくれるかな?

主人公
これはもうバッチリです!
ある技術について特許権を獲得すると他社はその技術を使うことができなくなります。
もし真似されたら特許権を行使して①追い出したり②お金を払わせることができます。
 
 

事業企画
ふ~ん… 随分強力な権利ですね。
確かに上手く使えば事業を有利に進められそうだな。
 
瑛大
特許部員
そんな強い力を持つ特許権…
当然、無条件に手に入る訳はないよね。

主人公
代償としてその発明の技術内容を公開する必要があります。
特許出願人側は一定期間技術を独占することができ、ライバル達はその技術的知見を自分達の研究に取り入れることができます。

事業企画
なるほど。
交換条件って訳ね。
瑛大
特許部員
そのバランスを保つ者として特許庁が出願の内容を審査することになっています。
せっかく出願しても審査を突破できないと特許権は貰えないんだ。
 

主人公
だからこそ審査でチェックされるポイントを先に勉強したんですよね!
ちゃんと権利になる特許を想定して出願ができるように!
瑛大
特許部員
その通り!
でも…出願時に想定するのはそれだけでは不十分なんだ。
悟くん、分かるかな?

事業企画
何となく分かりました。
事業上の武器になるような特許の内容にしたいってことですよね?
瑛大
特許部員
…颯真くんが2人を組ませた理由が分かる気がするよ。

主人公
それはまだよく分からないですけど…
ただ権利になるだけではなくて事業に活用できるものでないと意味が無いってことですね?
 
瑛大
特許部員
そういうこと!
特許出願というのは発明を権利化し事業に活用する意志表示なんだと捉えて欲しいです。
 

事業企画
闇雲に出願するんじゃなくて事業上の目的意識をしっかり持てってことか
確かにこれは事業戦略と融合していないと上手くいかないな…。

主人公
瑛大さん、特許出願の目的について教えてくれませんか?
瑛大
特許部員
OK!
出願の目的には色々あるけれど今回は主要なものを2つ教えるね。
 
瑛大
特許部員
製品開発の過程では本命を含め様々な候補技術を生み出すよね。
その技術を他の会社も実施したとするとどうなるかな?

主人公
せっかくの最新技術が陳腐化してしまいます。
自社製品の差別化ポイントが消えて競争力が下がりますよね。

事業企画
誰でも作って売れる状態は…
過当競争に陥って製品価格が下がるんで困ります。
瑛大
特許部員
2人とも凄い理解力だね。
そうならないように他社が自社と同じ技術を使って事業領域に侵入してくることを防ぐ
これが特許出願の守りの目的だよ。
 
   

主人公
なるほど。
守りがあるなら攻めの目的もあるんですね!?
瑛大
特許部員
察しが良いね!
当然自社だけでなくて他社も同様に技術開発をしているよね。
そしてその技術について特許権を獲得してくるはず。

主人公
以前教わった通り特許は陣取り合戦ですからね!
第3話

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瑛大
特許部員
仮に他社が研究開発している候補技術を先読みして自社で特許権を獲得できたとしたらどうなると思う?

主人公
自分達が実施する予定の技術ではないので他社を追い出して守りにいく必要はないですよね。
   

事業企画
なるほどね。
それで攻めって訳か。
他社にこの特許権を提示することで何かを要求するんですね?

主人公
陣取り合戦の時にも教えて貰いましたね。
特許権を売ったり、ライセンスを与える代わりに、対価を貰うことが可能です。
 
瑛大
特許部員
その通り!
   
 
瑛大
特許部員
実はそれだけじゃないんだ。
今のとは逆の状況を考えてみてごらん?

事業企画
自社の研究開発で生み出した候補技術が先に他社の特許で押さえられてしまった場合ですね?

主人公
それは残念ながらその技術は実施できないですね。
他社に特許権を行使されてしまうので…。
   
瑛大
特許部員
そのままなら…ね。
どうしても取り入れたい候補技術だったらどうする?
諦めるのかな?

事業企画
…!!
へ~ …
特許って面白いっすね。
 
瑛大
特許部員
おっ気付いたかな?
この辺は特に事業企画のセンスに反応する内容だよね。

事業企画
こちらも交渉カードを切れば良い話です。
お互いの候補技術について特許権の持ち合いならば、双方許諾し合うとかやりようは幾らでもある。
瑛大
特許部員
その通り!
自社の事業や研究開発の自由度を確保すべく他社との事業上の交渉に活用する。
これが2つ目の特許出願の目的(攻め)です。

主人公
特許出願によって来るべき交渉に備えて手札を揃える訳ですね。

事業企画
事業情報から自社と他社の狙いを共有すれば強いカードが揃えられる。
それが俺が特許の仕事に絡むべき理由の一つですね?
瑛大
特許部員
完璧です。
   

主人公
おい、悟。
さっきは喧嘩吹っ掛けて悪かったよ。
事業と開発の情報や考えを共有しないと良い特許出願はできなさそうだな。

事業企画
俺の方こそすまん。
新規事業を生み出すのに開発も知財も色んなこと考えてんだな。
面白そうだ。お前の新商品案の戦略組み上げていこうぜ。
瑛大
特許部員
(朔も颯真くんも指導者だなぁ。これは強力なタッグになりそうだ。)

事業企画
何ニヤニヤしてんすか瑛大さん。笑
特許出願の目的も分かったことですし…

主人公
どうすればその目的を達成するような出願が出来るようになるか勉強させて下さい!
瑛大
特許部員
こら、ニヤニヤって…笑
 
瑛大
特許部員
よし!
それじゃあここからは良い特許出願の設計図を描くためのポイントを説明するよ!

主人公
お願いします!
 
瑛大
特許部員
特許出願の価値を決める代表的なものには①権利範囲②特許性③侵害立証性があるよ。
   

主人公
突然難しくなりました!
一つずつ教えてください!
瑛大
特許部員
だよね。
まずは①権利範囲から説明するね!
 
瑛大
特許部員
これは特許権を獲得し縄張りとする範囲の魅力度の高さです。

事業企画
自社や他社がその技術を使って事業をしたいと思うような範囲を見極めて設計しないとですね。
瑛大
特許部員
それが一番大事。
将来的に事業の本命になる技術というのは確実ではないから、候補技術も含めて範囲を拡げられれば尚良いね。
   
 
瑛大
特許部員
次は②特許性です。
これは新くんは前回までに学んだことだから分かるよね?

主人公
はい! いくら良い範囲を設定して出願したとしても特許権が貰えなければ話になりません。
審査を突破できるだけの出願としての内容強化が必要ですね。
瑛大
特許部員
バッチリです。
実は、審査を突破して特許権になったとしても、後から権利を潰しに掛かる手段も用意されているんだ。
それでも潰せないと言えるレベルの耐久力が備わっていると尚良いです。
   
 
瑛大
特許部員
最後は③侵害立証性です。
これは何のことだか分かるかな?

主人公
…分からないです。

事業企画
…同じくです。
 
瑛大
特許部員
これはちょっと難しいよね。
要は…いざ他社が自社の特許権の中に入って来た時に弾を当てることができるかという話なんだ。

主人公
すみません。
もう少し詳しく教えて下さい。
瑛大
特許部員
他社が隠れて自分達の特許権の範囲で技術を真似して使っていたとしても、その侵害行為に気付かなければ弾を打つこともできないよね?

主人公
なるほど!
侵害を発見しやすいような特許権の内容になっているかということですね?
瑛大
特許部員
そうそう!
更に言えば、侵害しているということを裁判の場で認めて貰えないといけないんだ…。

事業企画
ほう…。
侵害していることを証明しやすいような特許権の内容になっていることが大事なんですね。
   
 
瑛大
特許部員
特許権の価値を決めるものには様々なものがあるけれど、代表的なものとしては今説明したような項目があるよ。

主人公
各項目に対してどんな風にステータスを振るか…
瑛大
特許部員
そう!
それこそが特許出願の設計図を描くということです!
 

事業企画
まぁでも…
理想的には全項目の質を100点にすれば良いんですよね?
瑛大
特許部員
それがそう単純でもないんだ…。
そもそもが早い者勝ちの特許出願活動において完璧を追い求めすぎて遅れをとるのは本末転倒
第2話

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瑛大
特許部員
という訳で特許出願の「目的」に沿う項目の質を優先的に高める設計が鍵になるよ。
瑛大
特許部員
実はね…。
これら特許出願の能力値を決める各項目はそれぞれ独立ではないんだ。

主人公
どういうことですか!?
 
瑛大
特許部員
例えば、権利範囲の広さを無闇やたらと拡げたとするとどうなるかな?

主人公
…あっ!
権利化編で勉強しました!
既に知られた従来技術が広過ぎる権利範囲の中に入ってしまいやすくなります。
そうすると審査における新規性のチェックポイントを突破する力が著しく弱くなりそうです…。
第8話

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瑛大
特許部員
そうなんです!
こんな風に、ある項目を欲張ると他の項目で失敗する可能性が高まるという相関関係が隠れているんだ。

事業企画
特許出願…想像以上に奥が深い。
 
瑛大
特許部員
もちろん僕ら知財専門家の仕事は、この相関関係を打破して少しでも全体の能力値を引き上げることにある。
そうはいっても、特許出願の目的を共有した上でどの項目を特に引き上げて欲しいかの要望を言って貰うことは重要なんだ。

事業企画
例えば、攻めと守りの目的でどんな違いが出るんですか?
瑛大
特許部員
良い質問だね!
自分達の事業を守る目的ならば、肝心なところでも使い切れるように特許性や侵害立証性は特に重要になると思う。

事業企画
なるほど…。
他社との交渉カードを用意するための攻めの特許ならば、少々脆くても広く網を掛けるような広範な特許が良い…かな。
瑛大
特許部員
特許の目的には色々なものがあるから絶対ではないけどね。
少なくとも活用を想定して特許出願の内容を作り上げることの大切さは分かったかな?

事業企画
よく分かりました。
しっかりコミュニケーションとらないとですね。
 
瑛大
特許部員
ガイダンスはここまで!
それでは次回からは新くんの特許出願の内容を検討していこう!

主人公
よろしくお願いします!
今日もありがとうございました!

事業企画
ありがとうございました。
 
次回へ続く。

動画で学ぶ

 
たま
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たま
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