特許審査の意外な伏兵とは?(記載要件)

 

 
たま
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前回までのあらすじ

今注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 先輩研究員の颯真と研究チームを組み 新商品開発プロジェクトに挑んでいる。
新はインターン生の理人と共に 特許部員の瑛大から特許のことを教わっている。
現在2人は 特許出願を権利にするために越えるべき審査のチェックポイントを学んでいるところである。
瑛大達が特許業務を依頼している特許事務所の弁理士さん(茂瑚山&真琴)が打合せで来るため 新と理人も挨拶することになった。
前回

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このお話で学べること

特許審査の思わぬ伏兵(記載要件)とは?
3つの記載要件の内容は?
研究者達が意識することは?
 
たま
一緒に楽しく学んでいきましょう!

本編

 

 


主人公
こんにちは~。
理人
大学院生
今日もよろしくお願いします。
 
瑛大
特許部員
2人ともよろしくね。
今日は特許事務所の先生方に会ってもらう日だね。

主人公
はい!
事務所の弁理士さんにお会いするの初めてなので楽しみです!
理人
大学院生
僕も楽しみです!
ところで…瑛大さんのような企業の特許部員と特許事務所の弁理士さんとの関係はどうなっているんですか?
瑛大
特許部員
企業内ではどのような特許権を取得し活用するかの方針を考えるのが主だよ。
事業企画、研究者、特許担当でコミュニケーションをとって決めるんだ。
理人
大学院生
なるほどです。
特許事務所の弁理士さんにはどのような協力を頂くんですか?
 
瑛大
特許部員
特許権を獲得するには所定の書類を作成して特許庁の審査を突破する必要がある。
瑛大
特許部員
そこにはかなり専門的な検討や手続等が求められるんだ。
これをバックアップしてくれるのが特許事務所であり国家資格を持つ弁理士さん達なんだ。

主人公
プロフェッショナル!
カッコいいですね~!
瑛大
特許部員
今話した出願や権利化以外にもたくさん協力頂いているよ。
企業内に特許担当が居なければ方針決めにも助言して下さる場合もあるしね。
理人
大学院生
とっても心強い味方ですね!
茂瑚山
弁理士
瑛大さんこんにちは。
いつもお世話になっております。
真琴
弁理士
こんにちはです。
この新キャラは!?

  たま 皆さんこんにちは! 新 いつも特許の大学をご覧いただきありがとうございます。 たま これまでで第1~8話のストーリーを書いてきました。 特許のことを楽[…]

瑛大
特許部員
あ!
茂瑚山さん真琴さんいらっしゃったんですね!
こんにちは!
 
瑛大
特許部員
こちら弊社研究者の新とインターン生の理人くんです。
新は近々特許出願のご依頼もあると思うのでお力添えお願いします。

主人公
はじめまして!
これからどうぞよろしくお願い致します。
理人
大学院生
よろしくお願いします。
茂瑚山
弁理士
こちらこそよろしくお願いします!
御社の案件は長らく担当させて頂いています。
真琴はまだ新米弁理士なので2人でやらせてもらいますね。
真琴
弁理士
御社の文房具とっても面白い技術で大好きなんです。
まだ未熟ですけど少しでも力になれるように頑張ります。
よろしくお願いします。

主人公
(とっても熱心な先生方だなぁ…)
 
瑛大
特許部員
今日の権利化案件の打合せを2人に見学させても良いですか?
茂瑚山
弁理士
もちろんですよ!
瑛大
特許部員
ありがとうございます!
それでは打合せ部屋へご案内致します。
 
 
颯真
先輩
もこさん まこさん お世話になってます!
お!新と理人くんも参加するんか?
瑛大
特許部員
2人とも権利化について分かってきたから実際の雰囲気見てもらおうかなと思って。
颯真
先輩
それはええ考えですね!
ほんなら打合せ始めましょう!
真琴
弁理士
今日は〇〇案件の権利化の打合せでしたよね。
よろしくお願いします。
 
瑛大
特許部員
審査官からは進歩性と記載要件の拒絶理由が出されましたね。
颯真
先輩
そしたらまずはこの特許出願の技術のポイントと事業上の位置付けを説明させてもらいます。
瑛大
特許部員
そうだね。まずは説明をお願いします!
進歩性の拒絶理由を解消しつつ事業上欲しい権利範囲を漏らさない対応案を練りたいからね!
 
颯真から特許出願の技術のポイントや事業・開発の状況が説明された。
それを基に打合せは進み、進歩性を突破できそうな範囲や反論案がまとまってきた。
 
真琴
弁理士
これなら進歩性はいけそうですね。
それでは次は記載要件についてご相談させてください。

主人公
あ、あの~…
瑛大
特許部員
どうした?
何か質問があるかな?

主人公
はい… さっきから時々出てくる記載要件って一体なんですか?
瑛大
特許部員
そうだよね…ごめん!
記載要件というのは…
茂瑚山
弁理士
ぜひ私がお教えしましょう!
真琴
弁理士
あっ…やば…
もこ先輩スイッチ入っちゃった…
茂瑚山
弁理士
瑛大さん!
今どこまで教えてあるのかしら!?
瑛大
特許部員
えっと…
新規性と進歩性は教えました!
茂瑚山
弁理士
それでは新くん。
新規性って何だったか説明してもらえるかしら?

主人公
はっ…はい!
特許権を獲得するために突破すべき審査のチェックポイントの一つです。
出願した技術が知られていない(新しい)ものかどうかが問われます。
茂瑚山
弁理士
正解よ!
それでは今度は理人くん!
進歩性についても説明してもらえるかしら?
理人
大学院生
単に新しいだけではなくて簡単には思い付かないレベルの技術であることが問われます。
 

茂瑚山
弁理士
2人とも素晴らしいわ!
どうかな?審査のチェックポイントってその2つだけだと思う?

主人公
そうですね…
優れた技術に特許が与えられるのなら新規性と進歩性がクリアできればOKな気がします。
茂瑚山
弁理士
そう感じてしまうところだけれど…
 
瑛大
特許部員
特許制度がどんなものであったかをもう一度思い出してみようか。
ルールを使いこなせる人は趣旨をよく理解しているものだから2人も大事にしてね。

 
瑛大
特許部員
このように特許制度は “技術を開発した人を特許権で護る” 代わりに “その技術内容を世の中に公開してもらう” 仕組みだったね。

主人公
“技術を開発し特許出願した人” と “その他のライバル達” との利害を上手く調整して技術発展を加速させるんですよね。
瑛大
特許部員
そうなんだ。
だから審査されるのは、特許出願した技術が優れているかだけではなくて…

主人公
そっか!
特許権が与えられた場合のライバル達への影響力も考慮して審査されるんですね!?
真琴
弁理士
すごい…。
理解が早いですね…!
颯真
先輩
そう!新はセンスがあるんです!
やっぱ新商品開発PJのチームに誘って正解やったかな。
 
瑛大
特許部員
ここでよく考えてみて欲しいんだけど特許って凄く特殊な権利なんだ。
理人
大学院生
どんなところがですか?
瑛大
特許部員
前に話したように特許は陣取り合戦のイメージがあるんだ。
特許権で独占したい技術を陣地として押さえていく。
第3話

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瑛大
特許部員
でも土地とは違って特許権の対象となる技術には実体がないよね。
だから…特許出願する人がその権利範囲を自由にデザインすることができるんだ。
理人
大学院生
ふむふむ。
得られた技術成果をもとにして言葉巧みに真っ白なキャンバスに権利範囲の絵を描くイメージですね。
瑛大
特許部員
一方で特許権は他の人がその技術を事業で使うことを禁止できる強力な権利
あまりに好き勝手に権利範囲を認める訳にもいかないよね。
理人
大学院生
仮に新規性や進歩性はクリアしていても…ですか。

 
瑛大
特許部員
そのために設けられた審査のチェックポイントが記載要件と呼ばれるものなんだ。
真琴
弁理士
広くて強い権利をとりたいなら記載要件は超重要です。
でも研究者の皆さんには馴染みが無いので思わぬ伏兵となることが多いです。

主人公
確かに技術者にとっては新規性進歩性はイメージしやすいけど… 記載要件は知っておかないと厳しいかも?
茂瑚山
弁理士
主な記載要件はこの3つ!
明確性要件 サポート要件 実施可能要件

理人
大学院生
うひゃ~
専門用語のオンパレードだぁ…
茂瑚山
弁理士
なるべく分かりやすく解説したいのだけど…
何か良い具体例無いかしら…

主人公
それはもう!
瑛大さんお得意の転がらない鉛筆の例でお願いします!
瑛大
特許部員
そうだね。
前回、特許出願は技術にストーリー性をのせたものだという話をしたよね。

主人公
どんな課題があって、
それをどうやって解決して、
どんな効果が得られたのか、ですよね。
 
瑛大
特許部員
その通り!
それじゃあ前回用いた鉛筆の具体例をおさらいしてみよう!
ストーリー①
課題
従来の断面が丸い鉛筆には机の上で簡単に転がってしまうという課題があった。
解決手段
鉛筆の断面を丸ではなく多角形にするという技術を見出した。
効果
転がるのを防ぐことができた。
審査のチェックポイント
断面が丸の鉛筆しか知られていなかったので多角形の鉛筆は新規性をクリアできる。
一方で、お箸では転がらないように断面を多角形にしたものが知られていた。
このお箸の例をヒントにすれば鉛筆でも断面を多角形にすることは簡単に思い付くので進歩性はクリアできない。
ストーリー②
課題
鉛筆の場合は断面を多角形に削ると芯材を覆う周りの木材が割れてしまうという新たな課題が見つかった。
解決手段
芯材を細くし周りの木材の厚みを確保するという技術を見出した。
効果
周りの木材が割れるのを防ぐことができた。
審査のチェックポイント
断面を多角形にした場合に周りの木材が割れるというのはお箸には無い鉛筆特有の課題。
よってこの技術を思い付くためのヒントが見当たらないので進歩性をクリアできる。
まとめ
特許出願で設定した権利範囲
1.鉛筆の断面が多角形になっている。
2.被覆材が木材で出来ている。
3.芯材が炭素で出来ている。
4.芯材が細くなっている。
従来技術との対比
鉛筆の断面が丸である点と芯材が太いという点で異なる(新規性OK)。

断面が多角形のお箸をヒントにすれば、鉛筆の断面を多角形にすることは思い付くが、芯材を細くすることまでは思い付かない(進歩性OK)。

茂瑚山
弁理士
シンプルで分りやすい具体例ですね!
理人
大学院生
新規性と進歩性クリアしたのでこれで特許権になると思っていたのですが…
どうやら違うんですね?
真琴
弁理士
記載要件で問題になりそうなところが色々入ってる…。
この具体例上手い…。
瑛大
特許部員
ふっふっふっ…
狙ってました!

主人公
(なんか皆 茂瑚山さんのノリになってる…影響力ある人だなぁ)
茂瑚山 弁理士
せっかくだから真琴さん説明させてもらったら?
人に説明するのは良い勉強になるし自分の理解も深まるわよ。
瑛大さんよろしいかしら?
瑛大 特許部員
もちろんです!
よろしくお願いします。
真琴
弁理士
わ、わかりました!
それじゃあまずは明確性要件から…。

真琴
弁理士
権利範囲の条件として「芯材が細い」というのがありましたよね。
理人
大学院生
この条件で進歩性を出すことができたんですよね!
真琴
弁理士
実はこの表現には問題があるんですけど分かりますか?

主人公
う~ん…言われてみれば何だか不明確ですよね。
細いって…一体どれくらいでしょう?
真琴
弁理士
そうですよね!
この表現で特許権が成立したとしてライバル達は立入禁止区域がどこまでか分かるでしょうか?
理人
大学院生
ちょっと分からないですね…。
茂瑚山
弁理士
特許権は侵害すると事業が停止されかねないので必要以上に引いてしまって鉛筆が作れなくなりますね。
真琴
弁理士
それでは困るので縄張りがどこまでか他の人が分かるようにして下さいというチェックポイントがあります。
これが明確性要件です。

主人公
分かりやすいです!
茂瑚山
弁理士
(やるじゃない。頑張って、まこっちゃん。)
 

真琴
弁理士
次はサポート要件いきますね。

真琴
弁理士
次に気になるのは「多角形」という表現ですね…。
これは何が問題か分かりますか?

主人公
う~ん…
転がらないという課題を解決するための条件ですよね…
理人 大学院生
…分かった!
何角形までなら転がらないと言えるかが分からない点じゃないですか!?
真琴
弁理士
すごいです!
実際に試した鉛筆が六角形だけだったとして…
例えば100角形のような転がりそうなものまで権利範囲なのはどう思いますか?

主人公
広過ぎです!
納得いきません!
真琴
弁理士
そもそもこの特許出願は転がるという課題を解決する技術を編み出したストーリーです。
そこから外れそうなものまで縄張りにしないで下さいというチェックポイントがサポート要件です。

茂瑚山
弁理士
ただし!
実際に試した六角形の鉛筆しか権利にならないかというと…?
真琴
弁理士
そういう訳ではないです。
何角形までなら転がらないと思えるような説明がされているかがポイントです。
理人
大学院生
ふむふむ。
広い権利をとるためには理屈の説明が必要なんですね。

主人公
まぁ確かにその説明がないと他の人達が技術を参考にできないですもんね。
真琴
弁理士
権利を拡げることと技術を公開することの損得を天秤にかける必要がありますね。

真琴
弁理士
最後に実施可能要件です。

真琴
弁理士
これはとってもシンプルです。
この鉛筆の作り方や使い方が分からないと他の人達は知見を活用できないですよね?

主人公
特許権は技術内容を公開する代わりに貰えるものですもんね。
その条件を守っていないのに特許権を与える訳にはいかなさそうです。
真琴
弁理士
特許出願の書類は “権利範囲を書き表す請求の範囲”“技術内容を説明する明細書”セットです。
明細書で作り方や使い方が分かるように説明されているかをチェックするのが実施可能要件です。

真琴
弁理士
以上ですっ。

主人公
真琴さんとても分かりやすかったです!
理人
大学院生
ありがとうございました!
茂瑚山
弁理士
良かったわね、真琴さん♪
真琴
弁理士
ありがとうございます(照)

主人公
よ~し!
記載要件の意味は分かったし、いつものように瑛大さんが攻略法も教えてくれるんですね!?
瑛大
特許部員
いや、今日はやめておくよ。

主人公
ええ~!そんなぁ…
 
瑛大
特許部員
意地悪ではなくて理由があるんだ。
審査の段階で記載要件を指摘されてしまったらまずは迷わず僕たち専門家に頼ろう。
瑛大 特許部員
新くんと理人くんに今日理解して欲しいことは、新規性や進歩性をクリアできたからといって油断していると記載要件という名の思わぬ伏兵にやられてしまいますよということ!

主人公
確かに今日の話を聞いて少なくとも「思わぬ」伏兵ではなくなりましたね。

 
瑛大
特許部員
実は記載要件というのは出願時点に記載した文章そのものが審査対象になるんだ。
理人
大学院生
極論、審査の段階で慌てふためいても仕方ないということですね。
瑛大
特許部員
その通り。
色々と打開策はあるんだけど、それは専門家に任せて欲しい。

主人公
頼もしい!
 
瑛大
特許部員
むしろ本当に大切なのは出願段階でどうやって仕込みをしておくか…。
その点については出願について学ぶ時に説明するね。

颯真
先輩
よっしゃ!
記載要件についても分かったところで打合せ再開しましょか!

主人公
あ、颯真さんいらっしゃったんですね。
颯真
先輩
ずっとおるわ!
新…お前先輩いじり覚えおったな?笑

主人公
ごめんなさい!笑
打合せ続けてください!
 
その後、打合せは続き、記載要件の審査も突破する案が無事まとまった。
 
 
瑛大
特許部員
茂瑚山さん真琴さん本日はありがとうございました。
茂瑚山
弁理士
こちらこそありがとうございました。

主人公
あ、あの!真琴さん!
僕今新しいボールペンを開発中なんです!
頑張って良い発明するので特許出願の時よろしくお願いします!
真琴
弁理士
!!
はい!ぜひ!
一緒に良い特許とりましょう!
 
瑛大
特許部員
こういう関係って良いですよね。
茂瑚山
弁理士
ええ、そうですね。
2人の成長が楽しみです。

次回から遂にストーリーは出願編へ!
新は新商品開発プロジェクトを勝ち取れるのか!?

 
たま
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たま
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