前回までのあらすじ
- 今注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 先輩研究員の颯真と研究チームを組み 新商品開発プロジェクトに挑んでいる。
- 新と同期入社で若手のホープと称される事業企画部の悟(さとる)がプロジェクトチームに加わった。
- 新が考えた新商品コンセプトの技術について特許出願をするため 新と悟は特許部の瑛大と相談を開始した。
- 出願内容を設計するには先行技術調査が必要であるため 特許部の美人調査員 葵のもとへ相談に行くことになった。
特許出願の仮設計(発明提案書)
このお話で学べること
- 特許調査の種類と各特徴
- 出願前先行技術調査のコツ
一緒に楽しく学んでいきましょう!
本編
葵さんこんにちは!
あ、新くん!?(モゴモゴ)
ごめんなさい!何か食べてましたか?
えっと…マリトッツォを…お腹が空いてつい手が伸びちゃって…
(2021年度大流行のパン菓子)
ぷっ…ははは
葵さんお昼休みまであと一時間くらいですよ?我慢できなかったんですか?笑
ああ~!笑ったな~!ひどいっ!
すみません…笑
葵さんは調査に没頭するから頭に糖分が足りなくなったんですよね!
ふんっ
いまさらフォローしても遅いもん!^ ^
こんにちは葵さん。事業企画の悟って言います。
あ、ご紹介遅れてすみません。悟は僕の同期です。新商品開発プロジェクトで颯真さんチームで一緒に取り組むことになったんです。
そうなんだ♡颯真くんが目を付けたってことは二人ともきっと優秀なんだね!プロジェクト頑張ってね。
ありがとうございます!絶対プロジェクト通して見せますよ。
優秀ってとこを否定しないのが凄いよな…苦笑
… 葵さん想像以上に美人だな。新さんのためなら恋のキューピットやったりましょうか?(小声)
おまっ…頼むから余計なことすんなよ!?(小声)
??
ところで…今日はどうしたのかな?
実は…プロジェクトに出す新製品のコンセプトが決まったんです!それで、特許出願をしようという話になって…
すご~い♡ということは…特許出願前の先行技術調査のご依頼かな?
その通りです!相談お願いしてもよろしいですか?
あの…せっかくなんで特許調査の種類と特徴の全体像も教えて頂けませんか?出願前先行技術調査に限らず…
それは良いアイデアだね♡もちろんです!
悟!ナイス…
特許調査が必要となるシチュエーションは大きく2つに分かれます。①自社特許出願と②他社特許対策です。
えっと…実はオレ特許のことは瑛大さんに学び始めたばかりで…
そっかそっか!それなら復習も兼ねて新くんに説明してもらっちゃおうかな♡
はい!自分達がした発明について特許権を獲得すると他社に対してその技術を使うことをやめさせられるようになります。
競争力の高い技術を自社で独占することによって事業上優位な立場に立つってことか。
それを目的に自社の特許権(縄張り)を築く為の活動を自社特許出願と言います。
バッチリだね♡他社特許対策についてはどうかな?
今度はさっきとは逆の状況を考えてみます。他社が特許権を持っている場合は…その対象技術を使いたくても残念ながら特許権を行使されてストップを掛けられてしまいます。
それはまずいな…。でも、事業や研究開発を進める上でどうしてもその技術を使いたい場合もあるよな?
その通り。そういう時は…自分達の事業実施や研究開発の自由度を確保するために他社の特許権を打破することも必要になってくる。
それが…他社特許対策だね!
さすが新くん。丁寧に復習しているね。
ありがとうございます!
それぞれの活動で必要となる特許調査の種類と特徴を説明していくね。
よろしくお願いします!
自社の権利創出に関わる入口の調査としては技術動向調査が挙げられます。
前に一度葵さんにお願いした調査ですよね!ボールペンの研究開発を始めようと思ったタイミングで技術動向を知るための調査をお願いしました!
特許ってどう調べるの!?
そうだね♡自分達が進めていく研究開発領域近傍に存在している特許情報を調査して技術的知見を得ることが目的の調査です。
特許制度は特許権を獲りにいく代償として各社が技術情報を開示してくれる仕組みですもんね。そこから技術情報を取り入れたりライバル達の動向を察知していくことは大事ですね。
悟くん特許のこと学び始めたばかりなのに凄いね!ほんとその通りです!
更に視点を拡げて…世界の技術の潮流を掴み将来を予測するために特許情報を活用するIPランドスケープという考え方もあります。
へぇ~面白そうですね。確かに特許情報って経営や事業の方針決めに役立つ情報が沢山詰まっていそうだもんな~…
自社の研究開発が進んで特許権を獲得したいような発明が生まれた場合に行うのが出願前先行技術調査です。
まさに今回やろうとしている調査ですね。
出願した後の審査では新規性が問われますからね…出願に関係する先行技術を調査して事前に審査突破の策を練っていくことが大切だって瑛大さんが言っていました。
他社特許への対策に関する入口の調査としては侵害予防調査が挙げられます。
他社特許対策についてはまだちゃんと学んでいないので教えて下さい!
さっき新くんが他社特許の縄張りの中では自由に事業ができないって言ってくれたよね。だから自分達が事業をしようとしている領域に邪魔になるような他社特許が無いかをチェックする必要があるの。
なるほど!事業をする際に他社特許を侵害してしまうことを未然に防ぐための調査ですね!
もし万が一他人の特許権を侵害してしまうかもしれないことが分かった場合はどうするんですか?
良い質問です♡特許庁の審査を突破すれば正式に特許権は認められるんだけど…その判断はかなり高度だから特許庁も完璧な審査を保証することはできないの。そこで…特許権を潰しに掛かるという手続が用意されています。
そのために行うのが無効資料調査です。
そっか!審査では看過されてしまったような先行技術を探し出してきて邪魔な特許権
を無効化するんですね!
色んな切り口の調査があるんですね。
特許調査ってどれもやることはあまり変わらないと思っていたんですけど…それぞれ視点が違うので調査の特徴も異なりそうですね?
その通りです!
良ければ特徴の違いを教えて頂けますか?まずは他社特許対策関連の調査からお願いします!
侵害予防調査の方は抜け漏れを許さない網羅的な調査という特徴があります。
なるほど…自分達が事業をしたい領域にある他社特許権を見落としてしまうと侵害で訴えられてしまう可能性がありますからね…
たった一件でも見落とす訳にはいかない…まさに網羅的な調査ですね。
一方で無効資料調査の方は狙いを定め探し出す要所的な調査という特徴があります。
こっちの調査は侵害予防調査のような網羅性をシビアに求めないんですね。
特許権の無効化ではたった1件でも良い材料を見つければ潰せる可能性があるから…欲しい材料を明確にしながら要所で調査をするイメージなの。
よく分かりました!自社特許出願の方の調査についても特徴の違いを教えて下さい!
技術動向調査の方はズームアウト的な調査という特徴があります。
これはさっきの説明でよく分かりました!自分達の研究開発の方向性決めや新たな技術的知見を吸収することが目的なので広く動向を掴むことが大切ですね!
あまり細部に入り込み過ぎず俯瞰的に調査をするってことですね。
逆に出願前先行技術調査の方はズームイン的な特徴があります。自分達の発明が明確になっている状況なので、その技術内容に照準を絞って調査をします。
ありがとうございます!特許調査の全体像がよく分かりました!
今回はこの中の出願前先行技術調査を行うんですね!
なぁ新…瑛大さんはこの段階で少なくとも新規性のチェックポイントは突破できるように出願前先行技術調査が必要だって言ってたよな?正直まだあまりピンと来ていないから教えてくれないか?
OK!まず大前提から言うと…研究者が生み出す技術アイデアや実験結果は多くの場合「点」に過ぎない。だけど、その技術的知見はもっと広く通用するものだから権利範囲は拡がりを持った「面」で請求するイメージ。
そして…その希望した権利範囲の全てに対して新規性のチェックポイントをクリアすることが求められるんだよね。
はい! ここは僕も最初勘違いしていました…実験事実だけが新しければ良いという訳ではないんですよね…。
なるほどな。確かにそこは研究者の視点としては誤解し易いところかもな。
新規性でチェックされるのは、その技術がまだ知られていない新しいものかどうか…具体的には先行技術が有るか無いかで判断するんだ。
希望した権利範囲内に既に知られている先行技術が含まれてしまうと新規性不合格になっちゃんだよね…。
なるほどな。審査では、希望された範囲内に先行技術が存在していたかを審査官が調査して指摘をするって訳か。
そういうこと!もしそれで先行技術が見つかったとしても、新規性がクリアできるように権利範囲を後から修正することも可能なんだ。
…ん?それなら出願前にわざわざ俺らが調査する必要あるのか?
そこが俺にもよくワカラン。…葵さん教えて貰っても良いですか?
そこは皆疑問に思うところだよねぇ…。じゃあ少しヒントをあげるね♡
確かに新くんの言うように審査の中で権利範囲を修正することはできるのだけど…それって好き勝手にできるんだったかな…?
…あっ!そういえば前に瑛大さんから教わりました!修正が出来るのは飽くまで出願時点で書類に仕込んだ内容の範疇ですよね!
権利化ってなにするの?
ほう…!確かに特許権は技術情報を開示した見返りに貰えるものだから出願時点に公開した書類の範疇というのは頷けるな。
ということは出願前に調査しておかないとどういうことになっちゃうかな?
審査になってから想定外の文献が見つかると不本意な範囲に修正しないといけないかもしれないです!
確実に後手に回るな。
事前に近しい文献の技術内容を調査してから権利範囲を設計することが大切です。先行技術の位置が分かっていれば、出願書類に落とし込む時にどの部分を手厚く補強すれば良いかも分かるんだよ♡
最後に、出願前調査を実際に行う時の範囲の決め方について教えるね。
お願いします!
調査では労力と精度とのバランスが大事です。完璧を求めて網羅しようとすると調査件数がどうしても膨れ上がってしまうの…。
とはいえ…精度を荒くし過ぎて見るべき文献を漏らしてしまったら本末転倒ですよね。
そうなんだ…。そのジレンマがある中で出願前にどこまで調査をしておくべきか相談することが大切なの。
最低ラインとしては実際に生み出した実験事実やアイデアそのものをカバーできる調査範囲になりますよね…。
でも…さっき新が言っていたように権利範囲はそこから拡張して希望していくんだよな?なら狙うべきラインとしては権利化を希望する発明の外縁をカバーすることだ
な。
どこまでの技術を縄張りにしたいのかという観点で調査範囲を設定していかないとな。
二人とも本当に凄いね!まさにその通りです!
それ以上は割り切って審査で対応するということも大切です。ここまで調査をした上でなら出願時に色んな材料を仕込んでおくことができると思う。仮に審査で想定外の文献を指摘されても対処できるだけの引き出しが多いはずだよ。
イメージとしてはまずは既存の特許分類を組み合わせて広めに縁取りをします。
特許分類は前に葵さんに教えて頂きましたね!特許庁が全ての特許出願に付与していくれている共通の技術分類コードですよね。
へぇ~! そんなのがあるのか!確かにそれを使えば大まかに自分達の見たい技術分野を切り出せそうだな!
特許分類は便利だけどそれだけでは調査件数がすごく膨大になってしまうので…絞り込みのポイントとなるのがキーワード検索です!
キーワード…ですか?
新くんが生み出した発明の外縁を上手く捉えることができる技術ワードを教えて欲しいの。そのワードが登場する文献をヒットさせるように範囲を絞り込んでいきます。
そこが研究者である新が頭を絞るべきポイントってことですね。
なるほど!良く分かりました!頑張ります!
それじゃあ新くんの出願前先行技術調査の範囲を相談しよっか♡
…!
あ~…っと、そうだ。俺この後打合せがあるんでここで抜けさせてもらいますね。
そっか…。頑張ってね悟くん♡
おい…感謝しろよな。男なら葵さんを飯にくらい誘えよな。あとで報告ヨロシク!(小声)
う、うるさいな!それが出来たら苦労はいらん!でも…サンキュ(小声)
それじゃあ打合せ始めよ♡
よ、よろしくお願いします!
葵と二人で出願前先行技術調査の打合せをすることになった新。
出願内容は上手くまとまっていくのか!?
葵を食事に誘うことはできるのか!?
次回へ続く。
特許出願の本設計
(発明のストーリー構築)
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